国語の時間
※注 このお話は二人が日本語で会話をしているということにしてください。
BGMは宮城春雄氏の「春の海」。お正月によく聴くあれです。
このところ、エリックは暇を見てアンジェリーナに漢字を教えている。
彼女は好奇心が強いうえに、そこらの子供より飲み込みが早くて、楽しいのだ。
「これは?どこにも味方がいないのは?」
「うーんとね、昨日のお話にあったから・・・『四面楚歌』」
「正解。次も史記から・・・・仲の悪い人同士が何かの事情で一緒にいること。難しいかな?」
「あ、だいじょうぶ!『呉越同舟』、あたりでしょ?」
ぱたんとドアの開く音がして、甘い匂いと香ばしいかおりが漂ってきた。
「あらあら、ずいぶん難しい遊びをしているのね。ムシュウ・エリック、アンジェリーナ、少し休憩にしたら?」
ヴィクトーリアが二人が向かい合っているテーブルに桜餅とほうじ茶をおいた。
「おかあさま、あたしね、いろんな漢字を覚えたのよ」
「そう、すごいわね。ムシュウ、ありがとうございます。お忙しいのに、この子の相手をしてくださって」
「楽しませてもらっているのは私の方ですよ、マダム。アンジェリーナは、一度覚えたら忘れない。とても優秀な生徒です」
「えっへん!」
アンジェリーナが腰に手を当てて胸を張って見せた。
「さぁ、召し上がってください。お口に合えば嬉しいのですが・・・・あら?ムシュウ、少しお太りになりましたか?以前よりお顔がふっくらされたみたい」
エリックは頬に手を当ててみた。
言われてみれば、クリスティーヌと過ごすようになってから体重が増えたようだ。
彼は照れた。
「はぁ、生活が規則正しくなりましたから。そのせいでしょう」
ヴィクトーリアはくすくすと笑った。
「お幸せそうですね」
エリックは顔をさらに赤くして頭をかいた。
二人のやりとりと端で聞いていたアンジェリーナが大きく手を挙げた。
「はいっ!答えをいいまーす!」
「?・・・どうぞ」
アンジェリーナは得意満面に声を張り上げた。
「中年太りですっ!」