ぐつぐつのよる





目の前で牡蠣鍋がぐつぐつと煮えている。
今日は寒いからって、クリスティーヌがこしらえてくれた。
飛び上がるほど嬉しい・・・。
だが、味が薄い。薄すぎる。
私はきょろきょろと、テーブルの上に視線をさまよわせた。
「エリック、これ?」
「それなの?これの方がよくないかなぁ、おじさん」
「いやいやこっちの方が風味が増しますよ、マエストロ!」
「あ、ちょっと待ってくださいねぇ、とっておきの物があるんでーす!」
「・・・・・・おすすめ」
「(鳴き声)」
「やっぱりこれよね!はいっ!」
「ここは二人の思いでの味で・・・ね」
「みんないったい何をやっているの!!」
と、クリスティーヌがブルドックソースを、アンジェリーナがみたらし団子を、フィルマンがキムチを、アンドレが生クリームを、ロシュフォールがこしあんを、ぴょん太くんが石鹸を、メグがイカスミを、ダロガがタルタルソースを、マダム・ジリーが越の寒梅を差し出した。
どいつもこいつもと思いながら、こんなにかまってもらえて、ちょっと幸せなエリック。