我が国においては、恐らく人類の歴史が始まって以来ごく近年まで何万年もの間、菜食中心の粗食に甘んじてきた食生活の歴史があります。大きな動物も豊富に無く、鹿やイノシシもそうそう食卓に上ることも無かったと思われます。仏教の伝来以後はますますもって食肉を食べることも一般庶民にはまず無かったと思われます。庶民が牛乳を日常飲用することもほとんど無かったはずです。経済的な問題や、内陸までの輸送の問題、そして絶対的な収穫量の問題から、江戸時代においても魚すら庶民はそうそう口にしたものでは無いと思われています。いきおい穀物と野菜中心の低脂肪食ですが、我々の身体はそのような生活環境、食文化に適するように長い間に造り上げられてきたと言って良いと思います。
明治以後、西洋の肉食習慣が導入されても、昭和20−30年代までは、ごくたまのすき焼きとか、肉を食べることは特別馳走食としての意識の中にあったのです。
ところがそれ以後、加速度的に肉食や、牛乳による味付けなどの西洋食が普及し、冷凍技術や輸送設備、輸入量の増加や養殖の発達など幾多の要因によって、魚やエビの摂取量も増え、反面野菜や穀類の摂取が減少してきました。現在の一般家庭では、毎日動物性蛋白や脂肪をほぼ毎食に食することが常識になりました。
これら過渡期を過ごして、以前の食事と現代の食事を比較する事の出来る年齢の方々にとっては、目をむくほどの驚くべき内容の違いなのです。厚生省の国民栄養調査の結果において、我が国の食事に占める脂肪成分が著しく増加しています。食品としては、穀類が減少し、反面肉類や乳製品の摂取が増加しています。
これらの食事の変化によって、何と我が国の成人の約半数が高脂血症との驚くべき統計が出ています。若年性の心筋梗塞も増えてきました。長い歴史の中で粗食でできあがった日本民族の身体は、急速な食事内容の変化に、おいそれと順応出来ず、混迷に陥っている結果であるかに見えます。そしてもう一つ大きな問題は、大腸の癌(ガン)の増加です。
これまでは我が国の消化器の癌のトップは胃癌であり、欧米人のそれは大腸癌でありました。当初これは民族性、体質の違いと思われてきましたが、食文化が欧米化するにつれて、今や我が国も胃癌が減り大腸癌がトップに躍り出ようとしています。この様な大きな変化は、何よりも食事内容によって起こった事なのです。
アメリカでは死亡原因の第2位で年間15万人が罹患し、他の先進国においても死亡原因の重大な地位を占めています。我が国においては、年間約8万人の大腸癌の患者が発生しており、今後ますます増加の傾向です。間もなく部位別での癌のトップを占めることは間違いありません。